心は叫んでるのに 13
俺は、研修期間のあと、営業部に配属になった。
提出させられた「希望部署」には「営業」なんてひとっ言も書いてなかったのに・・。
営業だけはやだった。こんな愛想のない口の下手な営業がいるか?!
同期で隣の営業二課に来た原口は、「明るくハキハキ」してるようにみえる。俺は、どうひいき目にみてもやつの対極にいるよ。気が重い・・。これから社会人として歩みだす一歩もひどく重い・・。
・・・すでに、辞めたい。
就職活動始めた頃、聖子さんに「自分の会社においで」って誘われたんだよな。彼女は自分で会社を経営してるんだ。行っときゃよかったよ。
一週間ほど内勤してる間、電話も取ったけど「声が暗い」ってさんざん言われた。「お前はホントにフレッシュマンか!」って。
胃に穴が開きそうだ・・・。
「じゃあ 今日から外行くから」
主任に言われて、のろのろと営業車の助手席に乗り込む。
営業と言っても、ルートセールスだから、飛び込みの営業なんかはない。・・・だけど、新商品アピールしてこいよと言われても「新しい商品、いいですよ」くらいしか言えないと思う。
俺は今日は挨拶だけで、主任に黙ってくっついてるだけなのに、主任より疲れ果てている。次から一人でこのルートをまわるんだと思うと、吐きそうだよ。
「お前具合悪いんじゃないか? 大丈夫かよ?」
「・・・いえ 緊張してるだけです」
「先方と世間話してる時なんかはちょっと気い抜いていいんだぞ?」
「はあ・・や・野球も観るようにしないとダメですかね?」
「スポーツニュースくらいでいいよ」
「競馬はやったことないんですけど・・」
「それもスポーツ新聞でいいから・・ホント真面目なヤツだな」
「・・不器用なんですよ・・」
適当に話を合わせるなんて高等技術、持ち合わせてないんだ。
必要なこと以外はしゃべれないし。
1日内勤を挟んでまた主任と外に出る。今度は別ルートだ。
「次に行くとこは結構新しい会社なんだ ラックとか棚とか
デカイ発注が結構多いから
今日は もしかしたら社長がいるかもな」
「社長さんってどんな感じの人なんですか?」
出来れば事前に情報を得て、心構えを持ってお会いしたい。
「それは会ってのお楽しみ」
前回の同行からそうなんだけど、絶対教えてくれない。先入観を持たせないためなのかな。
主任はすげえ人当たりがいい。こんな人が「ザ・営業マン」なんだろう。何食ったらこんなになれるのかな。
「俺 おろしハンバーグ定食にしよ お前何にする?」
昼飯を食うのに定食屋に入った。
「じゃあ 俺もそれにします」
ちょっとでもあやかろう。
ハンバーグを食いながら、つまんないこと訊くなあと思いつつも、訊ねてみた。
「主任は最初から営業部希望だったんですか?」
「・・・え~・・?もう忘れたなあ・・経理部は書かなかったと思うけど」
「そーすか・・」
訊いてどうすんだ。
「お前 自分に向いてないと思ってんだろ?希望してなかったのに営業になったって?」
すげえ笑われた。図星だ。「そんなこと言っててどうする!」と怒られると思ってたのに、主任はまだ笑いながら言ってくれた。
「まあ それはそれとしてお前はできると思うよ」
給料もらうからには、やらなきゃいけないんだもんな。
「がんばります・・」
「責任感は強いと思うんだよなあ・・」
「俺がですかあ?」
「うん 例えば・・
学園祭で交代のヤツが帰ってこなくて ずっと一人で焼きそば作っちゃうタイプ」
「み・・・見てたんですか・・?」
原口は同行してる先輩と合わないって言ってた。
俺は、館石主任と同行でよかったよ~・・・。
とは言え、この人のあととなると・・・俺のダメダメさ加減がアップしてしまうんだろう。
主任の担当ルートを引き継ぐなんて、荷が重過ぎるよ。
俺が一人で担当するようになっても、「館石くんいるか?」と電話がかかってくる。一人前の営業マンになるには、あと何十年かかるっていうんだっ。
接待ゴルフとか接待マージャンとか・・。やんなきゃいけないのかな?
「そーゆーの うちはないから・・」
「でも 接待で料亭とか高級クラブとか・・」
「そんなんもないよ バブルの頃じゃねーんだぞ」
「・・・じゃあ どういう接待が?」
「お前 リーマンになんか偏ったイメージを持ってんな・・・」
(出たっ。館石主任!)
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